ざくろ



 夫のすぐ上の兄Mは小さい頃から体が弱く、四十歳近くなって、職場の私より一歳上のT子さんと夫婦になり千葉に住んでいた。

T子さんは三十歳過ぎだったが若い頃病気をして、子供の産めない体なのでそれだけにとても夫婦仲がいい。その頃にしては珍しく、T子さんは、義兄を、さん付けで呼び、法事などで会うと「歌舞伎役者みたいないい顔をしているでしょ」と嬉しそうにのろけていた。

T子さんは踊りをしているので、新しく家を作りかえる時、日本舞踊の練習が出来る一部屋を作った。劇場で発表会があった時には親類の女たちが招待され、私達がお祝いに贈った若草色の着物が飾れられていた。

六十半ばでM兄が亡くなったあと、暫くして、私が一人でT子さんの千葉の家を慰問に訪ねる。思っていたより歓迎され、初めてじっくりと嫁同士の話をした。八人兄妹だが、歳の近い夫が一番、M兄に気を配っていたという。



この家の庭に大きな石榴の木があり幾つか実がなっていた。石榴酒をつくったから持っていって、とガラス瓶に入れた石榴酒をお土産にくれた。初めてみる透明な赤色の酒は本当に綺麗だった。帰るのが遅くなってしまい、電灯のついた千葉の街を喋りながら歩き、駅まで送られて帰った。

それから暫くしてT子さんの訃報があり、この時会ったのが最後になった。気性が合っていたので、今も生きていたら私の長電話の相手となっていただろう。
先日、水彩教室に、生徒の一人が庭のものだがと、石榴の枝を持ってきた。
早速、画材となったが、久しぶりにT子さんの、赤いお酒を思い出した。

 
H22/11

 

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