ノエル


次男の家の犬、ノエルが十二月三日に死んだ。キャバリアの十三歳である。
このところ老衰と肝臓病でやっとよたよと歩いていたので、心配していた。この犬は生まれてすぐから、月に一度くらい、私の家にきている。朝夕散歩してもらうとはいえ、マンションにいる犬はなんとなく不憫に感じているが、昔、私の家の犬が外で飼われ、フィラリアに罹ったのを思えばこれでいいのかもしれない。

車の音がして玄関のドアーをあけると、「僕がきましたよ」というふうな顔で真っ先にとびこんでくるのは、ノエルだ。慣れた様子ですぐ家の奥まで行ってうろうろする。決った食べものしかやってはいけないのは知っているが、私が食卓の定位置に座ると、食べものを貰えるかと期待してすぐ傍にやってくる。期待するまなざしをうけると、どうしても其の目に弱く、パンや果物のあり合わせのものを少しやってしまう。食べ物制限があるので可愛がっている孫娘がそこにいたら、叱られそうだ。先月きたとき、何時も食べているバナナの小片は拒否し、リンゴは喜んでいたのが不思議だった。



私たちが外食をする時、小さい時は連れて行って車の中で待たせたこともあったが、
この頃は、置いていっても後追いして鳴くこともなく、むしろ、だんだん留守番を好んでいるようになった。病気で耳があまり聞こえなくなったらしく、帰っても寝ていて奥から出てこないので起こす。息子と泊まることもあるが、二階の階段が昇れず、居間のじゅうたんの上で好きな場所で寝ていた。この二、三ヵ月、夜になって横浜のマンションの家につれて帰ろうとすると、自分は残りたいような風で一緒に玄関を出てゆかない。引きずられるようにして車に乗っていた。

十二月二日、様子がおかしいので、孫娘がかねて掛かっている動物病院につれてゆくと、重篤だと言われたという。
その夜は、家族それぞれに家を離れる用事があった。息子が真夜中、様子を見にゆくと、ひっそりと死んでいてまだ暖かかったという。最後を看取れなかった孫娘たちは大泣きをして、翌日、動物の葬祭場で見送ったそうだ。

 
H22/12

 

inserted by FC2 system