優先席  

四年前、家の中で靴下を穿こうとしてよろけ、後の金属製の丸椅子に背中をぶっつけて後ろに転んだ。瞬間、普通ではない痛さだと思う。やっと電話口に行き救急車をよんで、以前整形で入院した近くの公立病院に運んで貰う。直ちに撮った画像を診た医者は背骨は異常ないと言い、其の儘家に帰された。

しかしベッドから降りようとすると、呼吸がぐっと一瞬止まり、やっと呼吸が戻る状態で、二日後、どうしてもおかしいと頼んで入院させて貰った。だんだん痛さが収まり、一ヵ月経ち、退院する。紹介状を持って近くの整形でリハビリをした。

三ヶ月たっても、体の調子が悪く、近くの私大病院に行った。、若い整形医は私の裸の体を一見し、背中の十二胸椎がに折れていると言い、背骨専門の医者に回され画像を撮った。殆ど崩れて無くなっている骨の画像を見ながら、手術も出来るが、年だし、歩けるのだからこのままの方が良いと言われ其の儘、定期的に通っている。



後で考えると、ここに来る以前に画像を撮ったのは、救急の日の公立病院での一回だけである。そして救急時の医者も、入院時の主治医も、リハビリの医者も、私の裸の体を一度も見ていない。

救急時に保っていた背骨が、帰宅途中に崩れたのかと考えたり、又は年寄りの言う事は大げさとか、私の態度が悪かったという理由で丁寧に診て貰えなかったのかと、ひがんでいたら、福祉の医療関係の人から「今はセクハラのこともあり、画像中心で、裸にしてみるのがぐっと少なくなりました。最初の入院中、もう一回画像を撮ってみてくれたら良かったですね」と言われ、すこし納得した。

年齢とはいえ、それから急に体形が変わり、背中や腰が痛く、足先がしびれる。文句を言うものの、自分が不用意に転んだのが一番の失敗である。その後、道で転んで、右腕の付け根の骨を欠いた。

現在、私が老人で、余ほど弱った風に見えるのか、杖やカートを持って電車に乗ると、優先席にこだわらなくても、年齢、男女に関係なく、普通席の方がすぐ立って席を空けて下さる。二、三年前にはなかったことだ。有り難く座らせていただく。優先席でぐっすり眠っている風の若者は例外である。席の無い時には、扉の傍の掴まり棒にしかっり掴まって外を眺め、物欲しげにならぬように気を付けている。

私の同級生の中には、去年、外国の何千メートルの山にシエルパ付きで登ったり、一年に三回も、あまり聞いた事の無い場所の外国ツアーに参加している人もいる。二人とも大きな責任のある仕事をしてきた。しかし、最近、また、親しかった友人の認知症が進み、付き合えなくなった。

私は今、出来る事やってゆこう。
 
H19/10

 

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