実り

 玄関のチャイムが鳴って、私の家の前にある貸農地で野菜をつくっているIさんから、トマト、茄子、薬をかける前の、大根のおろぬきを貰った。

九月の終わりともなると畠に在る茄子やトマトの葉や姿は乱れて痛々しくなるが、最後の力を振り絞って実をならせているように見える。トマト嫌いの私は、外食の皿の彩りに添えられる赤いトマトは残すのだが、このIさんの、昔のように緑の少し残った新鮮なトマトは美味しく頂いている。青葱の苗の鮮やかな色が畠に目立つ。最後と思うこの畠の茄子を糠漬けに入れた。



午後から新ゆりの銀行にでかける。帰りがけにスーパーに行くと、入り口の所でBさんに会った。十五年ぶりくらいだろか。一瞬、両方で解かってアッと声をあげた。王禅寺の絵の教室で三年くらい一緒だった人だ。相変わらず上品な感じの人で懐かしい。絵の先生の思い出や現在の自分やらを暫く立ち話をする。

どうせ此処からはタクシーで帰るのだからと油断していたら、カートの上下の入れ物が一杯になってしまった。荷物を作って一応外に出たが重い。
タクシー乗り場はすぐ見えているが、途中に段差があり、足元に自信がないので売り場に戻り、カートや籠の世話をしている整理のおじさんにタクシー乗り場まで運んでくれるよう頼んだ。

おじさんは「そんな事していたらこの仕事をしている人が此処にいなくなるから困る」と一瞬嫌な顔をして断わったが、よく私の顔を見てから、「今は勝手なことを言うお客さんが多くて困っているんだけれど、お年寄りは別だよ」とすぐ私のカートを押して運んでくれた。

「考えられないような無理な事を言う女性がいて、これで世の中どうなるのかね」と言いながらタクシー乗り場まできて、私の荷物を車に押しこんでくれた。スーパーの上着をはおり、定年後ようだが、なかなか立派な顔の方にみえた。
タクシーを降りて玄関に着くと、辺りから昔のままに虫の声が聞えてきて何となくほっとした。
 
H19/10

 

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