投稿

 先日、朝日新聞の「備える」という記事の所に「終末期医療の意志表示」という欄があった。終わりに体験御意見をお寄せ下さい、と有るのを見て、ふと夫の最後の頃の様子が頭に浮かんできた。

 投稿の字数は書いてないが、「声」欄は五百字以内とあるので四百字くらいにまとめた。ファックスで送って、それだけで満足し、多くの人が応募して、どうせ採用されないだろうからと、期待せず、それに嫌なことを書いたので其の原稿はすぐに消してしまい残っていない。



 一週間ほどして、電話が鳴り、朝日新聞からだという。本人を確認してから「あなたの投稿を採用しますが、こちらで文を直しました。承認していただく為にFAXで送ります」と言われたが、折悪しくファックスの調子が悪いと告げると「これから読みます」といい、電話の向こうで読み始めた。

 三時間、何があったのか
 十七年前に心臓の病気でなくなった夫は、最後を自覚したとき、担当医に無駄な延命をしないよう、家族の前ではっきり頼みました。数日後、私達が病室を離れた間、人工呼吸器が外れ、気づいた時には心電図の線も平らでした。すぐに医師や看護士が六、七人入り、私は三時間後に入室を許可されました。夫の心臓は動いていましたが、意識はなく、目は古い魚のように赤く濁っていました。生かされるため、どんなつらい目に合ったったのか。私は無駄な延命をしないよう書いた紙を持ち歩いています。
(川崎市 無職女性 八十三歳)      

四百字くらい書いたのに、聞くと二百二十字とのこと。「随分短くなっているけれど、もう少し、夫の蘇生後の惨めな様子や、最後に私が持ち歩いている文の全文「無駄な延命をしないでください。誰も間に合わなくて結構です。楽が一番。」は載らないのですか、と聞くと字数に制限がありますので、と説明し、続けて翌々日の木曜に出しますと言った。
十一月十五日、朝日新聞を見る。十人くらいは載っているのかと思っていたら二人しかない。

投稿の記事が半分になったので、半端な気持ちで姉に電話をすると、「天下の朝日新聞に載ったのだから、立派よ」と褒められた。

息子が来て言うには、「古い魚の目のようとあるのがせいぜいで、それ以上の惨めな様子は記事として書けないよ。意思表示に反して、延命されてしまったのを主眼にして選んでくれたのだろうからこれでいい」と言われてやっと納得した。
                                                     新聞記事
 
H19/12

 

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