秋の箱根


 十一月十九、二十日と箱根に行った。宿は昔から憬れている「山のホテル」に決めた。今年も五月、躑躅を見に山のホテルに来たが、泊まったことがない。この日同行の友人Aさんは一歳年下で、箱根は久しぶりという。

朝から良い天気だった。町田駅で待ち合わせ、小田急ロマンスカーで湯本へ。登山電車で強羅に着く。近くで昼食のお蕎麦を済ませ、先ず紅葉で有名な箱根美術館に行く。

美術館の展示物はそこそこに観て、庭園を歩く。案内の方が今日辺りが最高ですと言っていたが、其の紅葉の見事なこと。真紅の濃い赤から、赤、赤桃、橙色、黄色、黄緑、緑と、いろいろな木々の葉の彩りが渾然一体となって、広々とした庭を覆っている。期待以上の美しさだった。大勢の人が訪れていた。

この期間、特別公開という離れの方の庭にも回り、紅葉に囲まれた池や滝の流れをみる。益田鈍翁が設けた茶室、白雲洞茶苑で抹茶を一服いただく。栗だけで造ったと聞く練りきりのお菓子がとても美味しい。

 この庭園は石段が多く、昇り降りしながら移動する。ちょっと気を取られて歩いていたら、ばったりと前に転んでしまった。すぐ後ろを歩いていた六十歳くらいの女性は「ゆっくり起き上がった方がいいですよ」と声をかけて心配して下さる。その後、石段を降りるときに、又其の方に出会ったら、全く自然に手を差し出して私と一緒に階段を降りた。こんな事が何気なく出来る人がいるのだ、と感心した。

公園下駅からケーブルカーで早雲山に登り、此処でロープウエイに乗り換え、桃源台駅へと向う。四囲の景色を眺めながらゆっくり山を降りて行く。この辺りの紅葉は少し早いようだ。西の空に富士山の頂上が少し見える。同じゴンドラに乗った焼津から来たという四十歳位の男性、四人組みが話かけてきた。毎年一緒に旅行する為に積み立てをしているとか。今晩彼らが泊まるという宿が麓に見えた。

桃源台に着いて海賊船に乗る。海賊船は出発間際だったので中は超満員。全然空席がない。多くの人に混じって立っていたら若い男性が「どうぞ」と言って席を譲ってくれた。これは本当に有り難たかった。



 海賊船が元箱根に着いて、タクシーで山のホテルへ。四階に案内されて窓から外を見ると、想像していたとおりの景色が広がっていて歓声をあげた。湖、船、対岸の景色、それに元箱根の街が見える。洋食の夕飯をすませ、大浴場に行った。

 翌日も好天気。朝、ホテルの庭を散策する。この日は富士山が大きく見える。タクシーで、久しぶりにススキの原の道を通り、「箱根ガラスの森」へ行く。ここに来るのは三度目だが庭全体がガラスの飾りで、きらめき、明るく楽しい雰囲気になっている。ここの美術館でガラス工芸品の作品を見た後、ガラス製品の売り場へ。ネックレスの所で私達二人の足が止まった。ゆっくり時間をかけ、結局、普段使いのものを二本ずつ買ってしまう。

庭の奥にある水車小屋がある辺りを見てから、花々が咲いている池の周りを歩き中央にあるレストランへ入る。二人のイタリア人がカンツォーネの生演奏をしている最中で、一人はピアノを弾き、もう一人は大きな声で歌いながら各席を挨拶するように回っている。客は手拍子をして盛り上げている。私達がここにいるのは少々場違いの感じもあるが心地よい。

食事を終えて、会計の方に歩いているとウエイトレスに呼び止められ、写真を撮って差し上げるから、ピアノの横に立つように言われる。何だかよく解からないが、一段上がってピアノの傍に二人並ぶとピアノ弾きの方は大げさに愛嬌を振りまいてピアノを弾く。大勢のお客さんの前で写真を撮ってもらった。

四時ごろになり、帰ることにした。バスで湯本に戻り、ロマンスカーに乗り、帰宅する。私には、とても贅沢をした気分の一泊旅行だった。

H19/12

 

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