タクシーの中で

私の家は高台にあるが、駅まで歩いて15分位かかる。畠もあり、車も少なく環境がいいので気に入っているが、歳をとって故障だらけになると、杖を付いてよたよたと坂道を歩いて転ぶよりと、タクシーを多用するようになった。

タクシー会社に電話をした時や、迎車の運転手さんに「毎度乗っていただきまして有り難うございます」と、挨拶される。誰にでも言っている言葉なのだろうが、昔、近所で、いつもタクシーで移動していた老人を思い出し、あの老人と同じく、なじみ客になってしまったのかと、情けない気もする。

ある日、スーパーに行ってから駅前のタクシー待合所にゆくと、車が一台待っていた。買い物でふくらんだショッピングカーを斜めに持ち上げて足元に置く。

車が走り出すとすぐ、「大分身体が動かなくなったんじゃないですか」と運転手さんが話しかけてきた。私の動作を見ていた運転手さんもそう思っていたんだ。「この頃はひと月ごとに弱ってくるみたい」と言いながら運転手さんの顔を見ると、知っている運転手さんの中の一人だ。50歳位か。



「歩かなくては駄目ですよ。体重を減らすことを考えなくては。坂道は危ないけれど、お宅の近くは平らの道になっているんだから、あの辺りを2,3回ぐるぐる歩いたらどうですか。歳をとると、食事を少なめにしてもお腹に肉がぐっと付きますからね」と、私の一番痛いところをズバリと指す。

「と、言ってもの僕自身も商売上、運動不足になって困っているんです」と言う。よく見ると、彼自身、丸顔で大分太っている。だから、太った人に注意できるのかもしれない。

他人に素直に見たままを注意されると、運動して少しは痩せようかと本気になって考えるから不思議だ。「今度会う時は少し痩せていようかしら」と言って運転手さんの顔を見て降りた。

翌日は雨で出かけられなかったが、昨日の運転手さんを思い出し2階への階段を何回か往復した。

H17/06

 

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