なんじゃもんじゃの木

とうとう今年も、代々木の絵画館の前にある、なんじゃもんじゃの木を見に行かなかった。
三年前、同じ沿線に住む小学校の友人、A さんに誘われて花の咲いている五月、この木を、見に行った。大きく広がって伸びた木には、こまかい白い花がかたまりとなってふんわりとやさしく咲いていた。私は初めてみた花だが、よく手入れされた広い公園の景色に似合い、上品な落ち着いた雰囲気がただよっていた。



久し振りに絵画館に寄ってから、案内板に添って歩くと、神宮球場があった。子供の頃、母に連れられて六大学野球をよく見にきたのはここだったのだと、久し振りにその頃の元気な学生達の応援歌や歓声を思い出した。

 Aさんのお父さまは、昔、日赤の医者で、戦前、朝鮮にたびたび渡って、仕事をされていたが、其の帰り、朝鮮の高官からこの木を頂いて、実家の庭に植えて大事にしていたら、たちまち大きくなったそうだ。けれど空襲で実家と一緒にこの木が焼けてしまった。Aさんはこの木にこだわり、時々、絵画館前に花を見に来ていたという。一人ではつまらないとこの年、私が誘われた。その日、食事をして、一日遊び、来年も又来ましょう、と約束した。

 去年は丁度私が体調をくずした。今年は私が早めにAさんを誘ったが、Aさんは駅まで歩くのがやっとになっていた。この一年、電車に乗ったことがないというので一緒にゆくのは無理だ。私の年になると一年の体調の変化が大きい。

私には何の関係も無い木だが、この絵画館の前の、なんじゃもんじゃの木は、印象が深く、時季になると、私も思い出す木となった。
 
 
H23/06

 

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