見舞い

             
九十歳の姉は去年の四月から老人ホームに入っている。独り身になった娘と隣同士に家を作り、すべて娘に任せ、安心して過ごしていた。六十台の半ばの姪はお稽古などに忙しく、その留守番役のような暮しで満足しているように見えた。奨められて時々福祉のデイサービスに行っていたが、これは、気乗りしない風だった。

姉は、同居していた姑や、晩年、病気続きの義兄を八十歳近くになるまで世話をしていて、私などとても出来ない活躍をしている。今その疲れがドット出ているのだろうと思っていた。

娘と隣に住むようになってから姉は急に太ってゆき今の私よりはるかに太った。食べないのに太るのよ、と断りをいっていたが、本当の所はどうだったのだろう。転んだ訳でもないのに骨折して、半月の入院のあと、歩けなくなり、老人ホームでの生活になってしまった。少し認知症はあるが、昔話は良くわかる。



三月、何度目かの見舞いに行くと体重が十数キロ落ちてほっそりとした体になっていた。いまだ足をつっぱれるだけで、歩くのには程遠く、何をするにも車椅子で、人の手を借りる。先日従姉妹が見舞いにゆくと、「家に帰ったら、遊びに来て」といっていたと言うが、そこまでには大分時間がかかるだろう。

姉が部屋の中でリハビリを受けている間、私を車で送迎をしてくれた姪と部屋から出て、食堂兼の大広間にいって待つ。入居人の男女数人が個室から出てきていた。自由時間なのだが、お互い会話が無く、其処で時間を過ごしているだけに見える。その広い部屋には童謡がずっと流れ、静寂を破っている。こんな後ろ向きの音楽をなぜ流し続けるのだろうと耳をふさぎたくなった。

しかし、私のような素人があれこれ言う事ではないかも知れない。一緒に行った姪に聞くと、これで全然抵抗がないという。わが身に置き換えて考えながら帰途についた。

 
H22/04

 

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