金管六重奏団



十一月の二日の日曜日、黒い服装で揃えた六人の中年楽団員がそれぞれの楽器を携え、老人ホームに入ってきた。このチ−ムはこのホームの住人、Yさんご夫婦の息子さんが早稲田大学時代から続いている音楽サークルの仲間たちだそうだ。去年はYさんの息子さんご夫婦のバイオリンとチエロの合奏をしてくださったが、このときも息が合っていて素晴らしかった。

今年も、六十三、四歳になった早稲田のサークル仲間六人「うち女一人」を引き連れて息子さんが、再び両親「八十八、九歳」の居られるこのホームに演奏に来られたのだ。舞台として整えられた広間に、それぞれの楽器をもって円形に座り、準備完了。客席では最前列中央にご両親が座られた。

サークルを代表してまずYさんの息子さんがご挨拶と楽団紹介、楽器の説明を簡単にされた。落ち着いて、なかなか立派な進行だった。
演奏が始まる。何時もの見慣れた食堂のホールが、華麗な音楽の音で埋まる。曲目はわたくし達の頭にしっかり刻み込まれているものばかりである。



演奏が終わり見物席の方を見るとご両親は無事終わって満足され、落ち着いた顔で退出されていたが、その周りを見ると、前列の席の私たちをはじめ、後ろのほうの席にいる人達まで一様に涙を拭いている。

後で、私たちのあの涙はなんだったのかと、皆で話し合った。
ご両親の前で、楽しめるような立派な演奏が無事終わったので、私たちも嬉しかったこと。ホームの中で、ご両親と年の近い私たちは、Yさんのように老夫婦二人揃って健在な者は少数しかなく、ホールの前列で息子さんたちの合奏が聞けるYさん夫婦が羨ましかったことなどである。

Yさんに話を聞くと、サークルの人たちが気楽に練習できるようにあまり広くない、四十坪の土地の中に、皆が集まって音楽ができるよう、完全防音のコンクリート造りの箱のような部屋を作られたそうである。皆が泊まりがけの練習の時は、母親である友人はお結びや、味噌汁、シチュウなど作ってもてなしていたとのこと。昔、尽くされたことは、今頃になって両親に返される。





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