金魚釣り




小学校の三年のころ、東京豊島区の雑司が谷に家があったので、家の近い同級生のOさんと二人で西武線にある豊島園の釣り堀に行った。その頃、西武池袋駅は、国鉄の池袋駅から少し離れていて、西武線の駅前には大きな豊島園の釣堀の看板が立っていた。看板に金魚とも書いてあったので行きたいと思った。これまで豊島園には、親、姉妹と何回か行っているが、子供だけでは、行ったことは無い。二人で釣堀に行くのは、私達にとって大冒険だった。

行くと目当ての金魚のいる五,六坪くらいの広さの釣堀があった。その時この釣堀にいたのは、若い男一人と、私達二人だけだった。入り口で入場料を払い、入り口の係りのおじさんに、初めて手にした釣竿を渡される。池はよどんで金魚は上からやっとおぼろに見える程度。早速餌をつけて糸をたれるが二人の竿には、全く金魚が食いついてくれない。反対側にいる若者の様子をみるといとも簡単に、これを見よ、といわぬばかりの顔をして、つぎつぎに赤い金魚を高く釣り上げ、器に入れている。幾ら待っても私たち二人の竿にはどうしても金魚が食いつかなかった。現代の子なら料金を払って釣堀に入ったのだから一、二匹位は欲しいと店番のおじさんに声をかけると思うが、当時の私たちはそんな知恵も勇気も無かった。



結局、私達二人は若者の釣り上げる様子を遠くから羨ましくみるだけで一匹の成果も無かった。お昼になったので二人で用意してきたお弁当と御菓子を広げる。

このときが友人がお八つ用にと持ってきた「りゅうがんにく」という大きな黒い干し果実があった。このとき私はこれを初めて見て、食べた。友人のお父様が外国航路の船長をしていたので、外国からもって帰られたものらしい。

ネットで調べると竜眼肉は滋養強壮の生薬で前から日本でも、西洋スモモと言って生産されていた干しプルーンに似ている。

今でも、街で竜眼肉をみかけると、あのとき一匹も釣れず、空しかった金魚の赤い姿が、チラリと眼の中をかすめる。




H25/10
 




 
inserted by FC2 system