妹の猫

ある日、妹から、飼っていた猫が居なくなったと電話があった。妹の息子は仕事の関係でたまにしか帰らず、普段は一人、知り合いから貰ってきた三毛猫を話相手に暮らしている。この猫は雌で、生まれてすぐ妹の所に来て、今二歳になる。

急に家から猫が消えた妹のショックは大変なもので、なんにも手に付かず、食欲が無く、気がおかしくなりそうと言う。

其の様子をみて、ある人が、「ぺっと探偵局」があるのを教えてくれた。早速問い合わせると、費用8万円と言われたが、お金の事をいっている場合ではなく、直ぐに頼んだ。
妹は大分落ち着いて「これで随分気持ちが楽になった。今最善を尽くして探しているのだから」と言う。

猫探偵の方は、毎日2回家に来て、妹を励ましたり、どんな処置をしたら良いか教えてくださっていたらしい。

夜の遅く、大きな声で猫に呼びかけたり、帰ってきた猫が入れるよう、朝早く戸を少し開けておくこと、その他の注意。そして、猫は一週間位何も食べなくても生きていられる事を教えてくれたので、一応ほっとしたらしい。猫探しのビラが道に貼られ、近くの家の郵便受けにはお願いのちらしが入った。



いろいろな人が、あの家の猫は一週間で帰ってきた、知り合いのは1ヵ月で戻ったと言う話を聞かせてくれる。しかし、妹は話として聞くだけで、別の方向に考えがいく。「私の家の猫は飼い猫で、自由がない。一生飼い猫で過ごすより、ノラ猫となって、外で自由気ままに暮らす方が猫にとって幸せなのかもしれない。そうも、考えるようになった。」と電話の中で言う。私はノラ猫の苦労を考え、「オカシイ」と思ったが黙っていた。

一週間経って猫が帰って来た。其の日も朝4時頃、妹が雨戸を少しあけ、ベットに腰掛けているとニャーという声がして、猫が飛びついてきたという。もう絶対離れないというように妹にしがみついた。痩せて、うす汚くなり、顔つきまで変わっていた。早速、獣医さんの所に連れて行き身体検査とシャンプーをして貰った。

「戻ってきました。」と探偵さんに知らせると、「おめでとうございます」と大きな声をあげて探偵さんが玄関に現れた。尋ね猫、の張り紙をはがすのに又幾らか費用がかかったが、知恵を授けてもらい、見つかったのだから文句は無いという。この後、猫は前にも増してべったりと妹に甘えているそうだ。

後で分かったことだが、電柱の張り紙をみて、赤い首輪の似た猫を見つけて、電話をくれた方がいたが、丁度妹が留守だったらしい。妹は探偵さんに教えられたように夜遅く外に向かって、大きな声で猫の名を呼んだが、後で近所の方々に、「聞えていました」と言われ、今になって恥ずかしいと言っている。
 
H19/05

 

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