部屋を変わる



このホームに入ってから、二ヶ月経って部屋が変わった。

この老人ホームはコの字型の建物になっていて、契約するとき、私の入る四階は、朝日も夕日もみえず、一日中、前の建物の屋根と空しか見えない中側の部屋しか空いていなかった。躊躇していると「景色の見える東向きか西向きの部屋が空き次第、其処に替わっていただきます。今、その順番待ちは二番目となります。」と言われた。景色が見える方が良いので、半年以上はかかるのかもしれないと覚悟しながら了承した。景色が見えなくても、すぐその環境に慣れてしまって、何にも感じなくなっていたのだが。

ホーム入居者は全体で八十人位いる。体調のかげんで四階から三階、二階に移る人もいる。
二ヵ月して、急に東向きの部屋に空き部屋が出来たと言われたので、そちらに移った。



息子にいわせると、前に聞いた別の老人ホームでは「マンションを買うのと同じで、ずっと部屋は変わることはありません。」と言われたそうだが、痴呆の程度が進んだり、病気が重くなったときは、健常者と一緒のエリアにはいられないだろう。

四階の東向きの部屋は朝、遠くの東の空から朝日が昇ってくる。景色の右半分は空と緑の木々と竹やぶ、その上に立つ大きな近代風マンション。左半分は高い空と家々の屋根。はるか遠くには、スカイツリーが見える。八月十八日の夜はベランダから多摩川の花火が見えた。部屋の広さより環境を第一にして選んだのは正解だった。

テレビでは連日の猛暑のニュースが流れているが、ホームの中にいると、その暑さを全然感じない。なんの苦労もなく三度の食事が目の前に出てくる。こんなに楽をしていていいのかしら、と思いながら日々を過す。





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