冬の上野へ

 一月の半ば、十一時に上野駅公園口の集合場所に行った。八人集まる。前日は雨だったのによく晴れて、冬としては暖かい日になった。私は余り歩けないのでいつものように杖がわりに小さいなカートを伴ってゆく。

先ずこの日の第一の目的である上野東照宮にある冬のぼたん苑に向かった。 七十五歳から八十四歳、気は若いが外見は相当なお婆さんグループだ。

 三分ほど歩き牡丹苑に入ると、寒さよけの帽子の形をした藁の囲いに、牡丹が二、三本ずつまとめられ、植えられていた。花の傍らには牡丹の花の俳句を書いた大きな立て札がある。どの花も今日咲いたばかりように、ふくよかな花の姿を私達に見せている。入場者に毎日、この美しい様を見せる為の管理はさぞ大変だろうと思った。

赤、桃、白、しぼり、と濃淡さまざまの花を眺めながら、道順に添って歩く。時々足をとめ、カメラで写す。「開ききり、冬の捨て身の白牡丹」の句が気に入った。

三椏の木が何本かあり、黄色い花を咲かせている。途中お休み処があり、毛氈を敷いた腰掛と赤い炭の入った手あぶりの火鉢が置いてあるのでそこで一休みした。

 ぼたん苑を出ると、すぐそばの東照宮に行き参拝する。帰りがけ、道の傍らで絵を書いている女の人たち数人がいた。それぞれ大きいビニールを敷き、中に座って、防寒着をきたまま、紙に直接筆で墨の線を引いて辺りの景色を写生している。昔私が習っていた画の手法と似ている。

冬の戸外で写生など今の私にはとても考えられないので、「若くていいわね」と思わすつぶやいたら、帽子をかぶった女性が顔をあげた。本当に若い女性だった。少し言葉を交わしてから「写真を撮っていいかしら」と言ったら、「有り難うございます」と答えてくれた。



 少し歩いて不忍池に行った。水鳥がたくさん池で泳いでいる。一昨年十一月初めにきた時より鳥が一回り大きく数が多い。大小いろいろな種類の鳥がいり混じっていて動き、見ていて飽きない。まがも、きんくろはじろ、おしどり、ゆりかもめ、あひるなどは私でもわかる。水の上をあちこち忙しげに動いているが、中には石の上で日光浴しているようにじっとしている鳥もいる。

 池に面した散歩道をぶらぶら歩いていると、黒い眼鏡をかけ、マスクをした中年の男性が自転車に乗ってやってきた。男が降りて紙袋を取り出すと、辺りの池の中に居た鳥達は一斉につぎつぎと陸の散歩道に上がり、男の周りに群がる。

大きな羽を広げて池の遠くからやってくる水鳥もあり、鳩や雀も来てその群れの仲間となる。「食べ物はやらないで下さい」と立て札があるが、こんなに多くの鳥達が集り、期待されているので、この人は、鳥たちに囲まれるこのひとときだけが、生き甲斐になっているのかもしれないと、考えながら足を止める。

 池を半周して、昼食予定の中華料理「東天紅」にはいった。バイキングのつもりだったが、混んでいたので、七階の中華店に行く。

ここの方が良かった。全員向かい合って席に座り、料理を取りにゆく手間が無いのは有り難い。料理を何種類か注文したが、どれも美味しい。暫く喋ってから帰途につく。御徒町駅の方面に歩き、それぞれの交通手段に分かれた。
H19/02

 

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