風呂

お風呂のことを考えると3つの場面が浮かんでくる。

小さい頃から住んでいた池袋の家では、母は妹とお風呂に入るので、私はいつも父と一緒だった。父の大きな腕で丁寧に身体を洗ってもらうと心地よく、風呂から出たあとも何となく安心感が残った。

この家のお風呂は家の北側にあり、そこに大きな無花果の木があった。その後の家は普通の構えだが、天理教支部の道場になっていて、時々「悪しきを払いて助けたまえ・・・」と人々の合唱が聞えてくる。裏へ出て垣根からのぞくと、2〜30人の大人達が、狭い座敷の中でお互い触れ合うのを避けながら踊っているのが見えた。

次のお風呂は子供達が幼稚園のころ住んでいた葉山の家のお風呂だ。遠くに江ノ島が見える山の中腹に建つ大きな家に4家族で住んだ。
お風呂は五衛門風呂で、家中の15人が毎日入る。四家族の主婦がお風呂の責任を交代で持った。当番の者は、昼間、誰かが身体や足を洗って砂で汚れているお風呂場を掃除してから、水を張る。そのあたりの小枝を集め、鉈で薪を割って風呂場の横に積み上げる。



その日の入浴の順番は決められており、順に声が掛かって来るが、次々と間をおかずに入らないと当番に迷惑がかかるので、パスをして次の家族に回す事も多い。帰りの遅い人もあり、真っ暗な夜、一人外に出て釜の中に薪を投げ入れた。
五衛門風呂と聞くと、大勢の人達と家族の様に過ごした日々が、海水浴や磯釣りの思い出と共に蘇ってくる。

3番目は現在のお風呂である。夫がいくなってから数年して、お風呂場に羽蟻がいるのに気が付いた。私はずっとこの家に住むつもりなので作りかえることにする。

家を建てた時からの付き合いの地元の水道屋さんに声をかけるとすぐ来てくれた。工事を頼むのなら、ついでに私のベットのある部屋からトイレが遠いので、この部屋のあまり使っていない一間の開き戸の押入れ(入り口は4尺)を、車椅子も入れるトイレに改造することにした。

水道やは、面倒な見積もりは出さないが、「風呂場の傷んだところを新しくし、泡の吹き出る装置をつけた良質の風呂を据え、押入れには出窓や物入れ付きのトイレを作り、全部で何がしかで請け負うが、どうか」という。

ジェットの装置は贅沢のような気がしたが、長旅をするような健康はもう無いのでこんな贅沢は自分を元気づけるには良いような気がした。高いのか安いのか判らないが、長年の付き合いを信用してこの水道屋に頼んだ。

お風呂場はさっぱりとした、気に入ったお風呂になった。

ベットの部屋のトイレは、真っ暗だった押入れに出窓が付いて明るくなり、棚が出来、姿を一新した。しかし両開きの戸はその儘地味な壁紙がはられたので、仏壇に出入りするような気分でどうしても使う気がしない。一度も使わないまま、二枚の引き戸に直し壁紙をかえたので、予算をオーバーした。

十年経って、お風呂も専用トイレも快適で、元気のある頃やっておいて良かったといつも思う。


課題   風呂
H17/10

 

inserted by FC2 system