どもる



三、四歳の頃「もっとゆっくり喋りなさい」とよく母に言われていた。言葉が滑らかに出ないことは自分でも自覚していて、ひそかに気にしていた。小学校二年生の時、各自短いお話を用意してきて、六、七人が順番に教壇に上がり、発表するお話の時間があった。いつもその中で二人くらいが選ばれ、その月の全校生徒会で講堂の中央に立ってそのお話をする。母が長さ内容ともに適当な話を選んでくれたので、たびたび選ばれたが、出るのを嫌がったのは私だけだった。



四年生の学校の帰り道、なにげない話をしていると一番の仲良しのY子が「Aちゃんは、どもりの先生だね」とサラリという。ドキリとした。やはり皆は気がついていたんだ。

それから、私は教室では黙るようになった。教壇の先生の問いに対して分かった人はハイハイと手を挙げるが、私これを機に、一切手を挙げなくなった。当てられれば答える。母が面接にゆくと先生は「すごくおとなしい子ですね」と言われていたそうだ。遊び仲間の間では全く気は使わない。

女学校に行っても、全く手を挙げないのは同じ。皆の前ですらすらと、最初の言葉が出なかったらと心配だから。しかし英語の時間は朝の挨拶をはじめ、時間中に四、五回は必ず順番に当たるので緊張した。

社会に出てから、今でも自分がどもって喋っているのは分かるが、だんだんと気にしなくなった。夫に、何か言われるかと思っていたが「そんなに慌てて喋るな」と言われた時が一回だけ。自分でそんなに気にする事では無かったのかもしれない。





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