電話


夕食の支度をしていると、学校時代の友人Aさんから電話があった。
定年まで、中学校の先生を勤め,傍ら茶道やお謡いの先生もされてきた。独身である。私はずっと親しくさせて頂いたので、八芳園や新宿御苑のお茶会、観世流のお仕舞いの発表会によく招いていただいた。

あんなに頭をフル回転しておられたのに、いつの間にかアルツハイマーになられ、この二、三年、どこか崩れて、話がかみ合わなくなったのは淋しい。いま、お姉様夫婦と一緒におられる。



「今私幾つだったっけ」「八十歳よ」「七十歳位かと思っていた。大正12年だけは覚えているから、相手に考えてもらっているの」と言ったかと思うと「若い人におもねる事無く、老年者にはそれなりの役割があるの。積極的に生きてゆかなくては駄目よ。」と、心構えは他のもろもろの方より立派で心地よく聞ける。

だが、私幾つだったっけ、と言う質問は同一の電話の中で何度もくりかえされる。
楽しい思い出を沢山いただいたのだから、と、取り留めの無い話を一時間あまりした。

でも、電話がかかって来て良かった。

一年前まで、昨日、電話をくださったばかりなのに、今日も「お久しぶり」と電話をくださっていた0さん。
昨年、老人ホームに入られて以来、一度も便りが無い。

H16/03

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