病院へゆく

九月の終わり、夜中にベッドから降りようとすると、刺すような痛みが右の肋骨の周辺に走り、動く度に一瞬グッと呼吸が止まる。傍にある箪笥の取っ手を両方の手でつかんで立ちあがり、そろりそろりと伝い歩きをして用事を済ませるが、又ベッドに上がって体を横たえるのに、わき腹が痛み同じ苦労をする。

今まで肋骨を何回も折っているのでこんな症状の痛みは初めてではないが、最近は転んだ記憶が無い。姉のように老化で大した衝撃もなく肋骨が折れているのかもしれない。

おかしいことに翌日は朝から昼間は、痛みが無くすっかり忘れて過ごしている。しかし夜になるとこの日と同じ症状が三日間続いたので、久し振りにM大学病院の整形に行った。

この日の担当医は、初めての先生で、先ず、画像を撮る。再び呼ばれて結果を聞くと、ここが折れていると言える場所が見つからないとのことだった。昼間は意識せず、夜中に体を動かすと痛むというのは、老化で、骨と神経との関係がおかしくなっているのかもしれないと自分で考えるが、大したことではなさそうだ。

折角病院にきたのだからと、耳鼻科にも寄った。病気でも無いのに大病院とは少しおおげさだが、気になっている耳垢取りをしてすっきりし、聴力検査をした。



病院の廊下で、待合室へと続く長椅子に腰掛けて前を通る人達を眺める。重い病気の人もいるのだろうが、殆どの人が元気そうにすいすいと歩いて往復しているようにみえる。其の中に混じって息子や嫁、ヘルパーさんらしい人に付き添われている老人には特に眼がゆく。

私はいつも一人で行っているが、初めての医院に行くと「一人で来たのですか」と先ず聞かれる時が多い。先生の言われる話が正確に伝わるのかどうか、心配されるのだろう。今までは自信があったのだが、この日はうっかりしていて名前を二回呼ばれるし、自分の動きが以前よりもたもたとしているのが気になった。それに私と接する看護婦さん達の説明がとても詳しい。もう少し鈍くなったら一人でない方がいいのかもしれない。

診察料を払う段になって、料金計算係の人に、マイクの呼び出しと、自分でやる器械操作の支払いとどちらにしますか、と聞かれ、器械と答える。まだこの位は大丈夫だ。

食事時なので病院の隣の建物にある中華食堂に入る。昔からここの食堂には何回入っただろう。馴れた食堂で知らない人達に囲まれ、一人で食事するのも、ホッとするひとときだ。いつものように本日の定食、を頼むと、もやしなどの野菜たっぷりの炒め物が出てきて美味しい。

隣にある銀行に寄り、タクシーで帰る。わき腹の痛みは、そのあと三日位で治まった。

 


 H22/10

 


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