梅の絵皿


私の家は40年以上経っているが、補修したり、不便な所を直して、私は家族のいた頃とほとんど同じ物に囲まれては暮らしている。

使っていない荷物が多く、若い人から見れば減らした方がいいと思うだろうが、戦争を経験したせいか、衣類でも食料でも何でも多めに有った方が落ち着く。

娘さんが整理好きで、「要るときには、買ってあげるから、使わないもの捨てなさい」と、次々に捨てられてしまう、との嘆きを聞いた事があるが、保存するスペースがあれば、過去に自分が関わった物が沢山身の回りにある方が、老後を生きるうえで精神的な安定をもたらしてくれる様な気がしてる。



主人は実家の義姉が画家だったので小さい頃から画を見て育った。絵が好きで、いろいろな展覧会によく出かけていた。

今は知らないが、以前銀座の松坂屋で年末になると、書、画、彫金等の、美術年鑑に載っているような方々が出品されるチャリティーの催しがあった。高いものは買えないが、主人はお小遣いで買える程度のものを毎年買ってきていた。

その中に梅の飾り皿がある。大道あやさん(原爆の絵、丸木スマの娘)の作で、素焼きの焦げ茶の大皿に、白く盛り上がった点々の梅の花が散り、左側に鶯が無造作に描かれている。とても地味なものだが、見ていると、素朴で自由な気持ちがこちらに伝わって来る。いくら見ていても飽きない。(私のパソコン画の能力では表せないが)

主人のいる頃は、主人が季節が変わるごとに季節に合った絵や飾り物を取り替えていたのだが、私だけの生活になると、こんな事はどうでもよくなった。15年前の二月、主人の亡くなった時のままに、この梅の絵皿は、外国土産の雑多な置物と一緒に、一年中動かず、居間の定位置に置かれている。

梅の季節になると、あなたの季節が来ましたよと、この絵皿の梅の花と鶯に話かけている。

H17/02

前ページ 次ページ



inserted by FC2 system