日比谷公園

 
         
十一月の末、紅葉を見に行こうと新宿御苑で友人Aさんと待ち合わせたが、うっかりして、月曜休園なのを忘れ、急遽行き先を日比谷公園に変えた。Aさんは東京の中央で育っているのでこの公園は染み深いという。私は有楽町や、宮城の周りには今まで何回となく行っているが、日比谷公園は入り口を覗いただけで奥深く入った事が無い。

新宿から地下鉄を乗換え日比谷駅で降りて、すぐ前の大通りを渡り、日比谷公園に入る。目の前には大きな噴水のある丸い池がありその回りで七、八人の女性がスケッチをしていた。

この辺りは宮城が近く、空の殆ど見えない鬱蒼たる大木の林が続いている。その林の中にこじんまりと見えるレストラン、松本楼の建物があった。ここは昔、孫文と親交があり、戦前からこのレストランの名を知っているので、前から一度は行きたいと思っていた処だ。昼時なので、近くのサラリーマン風の人たちが一階の入り口に十数人行列していた。 



しかし、折角都心まできたのだから、私たちは少し上等の、二階にあるレストランで食事をしたいと思い、受付で聞くと、最後の二席だけ空いており、運がよかった。

二階に上がると大きな部屋があり、隣には、ちょっと着飾ってかしこまった風の女性たちが十数人、食事をしていた。皆六十歳くらいの年齢なのでクラス会だろうか。大きな声も聞えず穏やかな感じで品よくみえる。他の三、四のグループも男女混じって食事していたが似たような様な雰囲気で全体が落ち着いていた。

二人とも新宿御苑に行くつもりで、普段着のセーターで来てしまったけれど、このレストランに入るなら、よそ行きのセーターを着てくればよかったと少し後悔する。期待していたような、気持ちの良い応対と、美味しいランチに満足して其処を出た。

大木の続く日陰の道を歩いてゆくと、池があった。池の回りをぐるりと囲んでいる木々が丁度、紅葉の真っ最中。二時ごろの太陽に照らされ輝いている。黄色、ピンク、橙、赤、臙脂、薄緑,濃い緑、の木々の取り合わせが何ともいえず美しい。

その木々の連なりは、池に、その姿のままを逆になって写し出している。上下二つの紅葉した木々が池の面を飾り、間に青い空がビルの姿を交えて少し覗く。池には二羽の鴨が連れ添うようにして静かに場所を変えて行った。散歩道の中程に置いてあるあるベンチに腰掛けて、この時しか見られない風景を暫く眺めた。

Aさんが、子供の頃からずっと見ていたという鶴の形をした噴水を探すと,以前の場所にあり、黒い金属製の鶴は羽を広げて水を噴き上げている。ふと「心に錦を持て」といわれた昔の教えを思い出した。 

池を離れ、公園のほんの一部を見ただけだが、元の道を逆戻りして早めに帰途につく。公園の道路に面した出入り口の右側には、十二月から始まるダ、ヴィンチ展のための白い大きな建物が、出来かかっていた。

課題     飾る


H23/01

 

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